アルコール依存の既往のある61歳男性
長期間の食思不振アリ
転倒の後，疲労，脱力感，関節痛を訴えて救急外来に受診した．
両下肢に末梢性浮腫、広範な血腫、散在する斑状出血、点状出血、びまん性毛包周囲性紫斑を認める
(画像.JAMA. 2019 Dec 24;322(24):2437-2438.)
凝固は正常だった
疑われる診断はなにか？
→ビタミンC欠乏症(壊血病)
さて今回のPearlです
食事摂取量の低い患者の凝固正常の出血傾向はビタミンC欠乏症(壊血病)を考える
ビタミンCの機能と臨床症状
・コラーゲン合成の補因子
欠乏するとコラーゲンの構造が不安定になる
皮膚、歯茎、粘膜、骨などの一部の組織には、より高濃度のコラーゲンが含まれているため欠乏症状を呈しやすい
出血傾向を伴う血管の脆弱化
創傷治癒の障害
また赤血球内のビタミンC濃度が低いと、低レベルの慢性溶血を引き起こす可能性がある
・神経伝達物質の合成に必要な補酵素
ドーパミン、ノルエピネフリン、エピネフリン、およびカルニチンの合成にも必要
・各種補酵素として作用
・抗酸化作用
ビタミンE、葉酸、鉄を安定化
壊血病になるとこれらの欠乏症を合併すやすくなる
(Can Fam Physician. 2008 Oct;54(10):1403-6.)
(JAMA. 2019 Dec 24;322(24):2437-2438.)
毛細血管の脆弱性が静圧に耐えることができないため、下肢に紫斑ができやすい
歯周病、歯肉線肥大と歯肉出血などもあり
(Can Fam Physician. 2008 Oct;54(10):1403-6.)
ビタミンCの推奨要件は1日あたり75〜90mg
不規則または不十分な摂取から8〜12週間以内に症状が出現
(Can Fam Physician. 2008 Oct;54(10):1403-6.)
ヒトは合成も貯蔵できない
吸収は回腸で行われ腎臓からの排泄によって調節される
(Proc Nutr Soc. 1992;51(2):189-198.)
→ちなみにヤギは自分で合成できるらしい
含有量の多い食品は
柑橘系の果物（オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ）や
野菜（ジャガイモ、ブロッコリー、ほうれん草、芽キャベツ、赤唐辛子）など
熱で容易に変性し料理などで失われてしまう
(Can Fam Physician 54：1403︲1406, 2008)
欠乏リスク
アルコール乱用、違法薬物使用、精神障害、偏食および食品に対する重度のアレルギー、神経性食欲不振症、クローン病、セリアック病、血液透析患者
(Can Fam Physician. 2008 Oct;54(10):1403-6.)
治療
壊血病の症状は一般に、アスコルビン酸の血漿濃度が0.2 mg/dL (11mcmol/L)(2mcg/dl)未満の場合に発生
(Dietary Reference Intakes for Vitamin C, Vitamin E, Selenium, and Carotenoids, Institute of Medicine (US) Panel on Dietary Antioxidants and Related Compounds (Ed), National Academies Press (US), 2000.)
組織レベルがまだ不足している場合、血漿アスコルビン酸濃度が正常化していても組織の濃度は不足していることがある
(Up to date:Overview of water-soluble vitamins)
→臨床症状が疑わしければ補充する
治療
・成人は通常300-1000mg /日
・1ヶ月間治療
・症状の多くは治療から24時間以内に改善
・紫斑と歯肉出血は数週間以内に解消
(Up to date:Overview of water-soluble vitamins)
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